1793540206320.jpg「200兆円規模『外為特会』が生まれた謎」が副題。「円安是正へ為替介入」「防衛費増、食品の消費税1%などの財源」というと、最近すぐ出てくるのが外為特会。いったい外為特会とは何か。かつては財源として「困ったときのたばこ税」などと言われたことがあったが、安易な「困ったときの外為特会」論議であってはならないことが本書を読めばよくわかる。為替のメカニズムや介入実施の過程、政策としての歴史等、200兆円規模になっている外為特会の仕組みを実務経験豊富な経済学者が明らかにする。

財務省は、「1990年代と2000年代に巨額な円売り・ドル買いを繰り返し、円建て負債と同時に、外貨建ての資産を急速に増加させてきた。その資産は外為特会と呼ばれる財布で管理しており、その残高は200兆円程度となっている」、そして「外為特会は安全性及び流動性に最大限留意した運用を行い、この制約の範囲内で可能な限り収益性を追求する」「金融・為替市場へ攪乱的な影響を及ぼさぬよう、最大限配慮しつつ・・・・・・」と基本原則が定められている。そして「単独介入と協調介入」「口先介入」「覆面介入と為替介入の開示」など為替介入の実態が詳細に示される。さらに「2025年時点で、その資産残高が200兆円規模、そこから生まれる利益(剰余金)は5兆円弱と巨額」「負債サイドが円であり、資産サイドがドルである(BS)」「現在、外為特会の含み益が約50兆円、バッファーである資産・負債差額は80兆円」「外為特会が得られる利益(剰余金)の7割を一般会計に繰り入れるルールになっている(2010年以降、約2兆円規模)(当然、日米金利差による)(為替介入となることを避けるため、ドル建ての資産を円へ交換することは避けられるので、繰り入れはテクニカルに工夫)」となっている。なお「3割については(FBを発行せず)外国為替資金に入れることで外貨運用をしている」と言う。

「外為特会によるドル貸し出し」――国際協力銀行(JBIC)に対してドル貸し出しを行っている。ODAだ。国際協力機構(J BIC)は、あくまで日本企業が海外で融資や出資する場合のサポート(補完的だから、JB ICには外為特会からドル調達額全体の半分までしか借りられない)。トランプの対米投資80兆円というのは、J B ICを介したスキームだ。

「為替介入と資金調達」――財務省発行の政府短期証券(F B)による。日銀の直接引き受けとなる。「フォワード(為替スワップ)とカバー付き金利平価」「通貨先物と海外の投機筋のポジション」など丁寧に紹介をしている。

外為特会の運用、積極運用と国民への還元などの要請は高まっており、安易に流されないしっかりした議論が必要となっている。前著「はじめての日本国債」に続き、さらに丁寧に現場・現実を踏まえて解説をしてくれている。


1793328145854.jpg「世界の経済・金融はどう変わったか」「ドル基軸通貨体制はどうなるのか」「日本経済はなぜ停滞し続けたのか」「円安はなぜ起きているのか」「賃金はなぜ上がらないのか」「円の暴落からのキャピタルフライトは起こるのか」「AIと外国人労働者は日本の中間層を破壊するのか」・・・・・・。世界と日本の経済・金融の現在地を、極めて丁寧に鋭く縦横無尽に語り合う。

「外国人にとって、"お買い得な国"の裏側」――。「『割高感』は円安のせいだけではない。安い日本だが、おそらく『賃金の違い』がある」「日本の停滞が続いたのは、① バッド・ラック(不運=金融危機、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など) ②バッド・ポリシー(まずい政策) ③ バッド・マネジメント(良くない企業経営=内部留保・賃金抑制)」と言う。

「なぜ働けどラクにならないのか」――。「日本は生産性が低いと言うが誤解である(1998年から足元までで30%ほど改善)」「賃金を抑え、雇用を守り非正規雇用依存。定昇のみでベアを凍結」「ジョブ型雇用で賃金が上がるわけではない」「四半世紀にわたって、実質賃金が全く増えなかった」「2022年以降の世界インフレに対し、金利差が開き、円安インフレとなった」「生産性が上がっても賃金が上がらなかったので、その分、物価上昇が抑えられてきた」「日本企業は、メインバンク制が崩壊し、内部留保を積み上げた」「大企業も労働組合も実質ゼロベア・ノルムに侵されてきた」・・・・・・。

「トランプ政権で、世界経済はどう変わる?」――。「『合理的な損得』よりも『物語としての公正さ』を優先」「アメリカは生産性を向上させてきた貯金があるので大丈夫だが、ユーロ圏経済は低迷、ドイツも低迷」「ドイツはロシアからのエネルギー供給と中国という巨大なお得意様(車など)という経済基盤を同時に失った」「トランプ政権からEUに押し寄せる防衛費拡大の波」・・・・・・。トランプ関税をはじめまさにアメリカに振り回される世界経済だ。「『ドル高修正』は段階的と思われるが、トランプ政権の大幅切り下げも警戒の内」・・・・・・。

「為替ににじむ国家の迷走」――。「2022年以降、日銀は異次元緩和を続け、金利差は広がり急激に円安が進んだ」「実質賃金は3要素(労働生産性・労働分配率・交易条件)で決まるが、分配は少なく、圧倒的に貿易条件が悪化し、実質賃金の足かせになった」「金利差だけで円安を解釈するのではなく、『どうせ利上げできない』『日銀は結局動けない』という円金利にまつわる思惑が長期的な円売りをあおった」と言う。

そして今、「見えない増税(インフレ税)」が始まっているとし、これは「所得や貯蓄の少ない人ほど影響を強く受ける」「超円安によって家計が苦しむ」と問題を示す。また、「危機的な状況になると円が買われる」だったが、「今は海外純資産の半分以上が日本から海外への直接投資の結果だから、危機的ムードが高まったからといって、海外工場などを売却して円に戻すという話にはならない」と言う。そして「貿易収支が趨勢的に赤字(経常収支は黒字だが)に陥ったのは2012年以降。貿易収支の赤字定着で円は"別の通貨"になった」と言う。「円安傾向は2022年以前から始まっていた」「海外展開が逃げになっていなかったか」と指摘する。

「日本からお金が逃げていく?」――。「インフレと円安のスパイラルで、長期金利は急騰し、メガバンクは格下げされると、外貨資金の調達に困難をきたすこととなる」「先進国とみなされているからはい日本の長期金利は低いが、そうでないとなると、日本国債は安全資産とみなされなくなる(戦後のイギリスで起きたことが、今の日本で起きている?」・・・・・・。ハイパーインフレの可能性について語り合っている。インバウンド黒字で稼いでいるが、新NISAを含めた投資も海外ものに向かうし、「GAFAMに支配される『デジタル小作人』から日本は抜け出せるのか」「新たな円安要因の『外貨建て生命保険」の大量資金の海外流出問題を指摘する。

「AIと外国人労働者が日本の中間層を破壊する?」――。問題は「収奪的なイノベーション」になるか、大多数に豊かさをもたらす「包摂的なイノベーション」か。今のアメリカは、一部の高所得者層に集中しているのは事実だ。

世界の経済・金融大きな構造変化に直面しているが、本書はその中で、「人間を豊かにするための経済」「生産性の向上に見合った実質賃金の引き上げが当たり前に行える社会の実現」「富を分け合う『包摂的な社会』」を根源的、包括的に示している。そして「そもそも政党や議会という仕組みは、近視眼的な判断や、一時的なブームによる軽率な意思決定を避けるために、人類が積み重ねてきた知恵が背景にあったと思われる」と途中で言っている。現在、世界の経済・金融、政治で何が起きているか。それを丁寧に剔抉、整理し、何を警戒し、何をすれば良いかを意欲的に示す説得力ある対談、力作だと感じた。今年はこれに加えてイラン戦争などがある。激動は増している。


1793083805794.jpg「食の安全保障をどう守るか」が副題。激しい主張が続くが、異常気象が常態化し、世界の食料生産が不安定化しているなか、日本の食の安全保障が切羽詰まった状況にあることを示す。危機感が迫ってくる。コロナ禍の2022年11月発刊の本。昨年の「米騒動」の前だが、ことは構造的な問題であるだけに危機はさらに増すことになる。

「日本のカロリーベースの食料自給率は、2020年の時点で約37%の低水準」「種・肥料(エサ)・ヒナなどほぼ輸入に頼っているものもあり、その海外依存度を考慮すると、日本の自給率は今でも10%に届かないくらい(鶏のヒナほぼ100%輸入)」「世界で起こっている『食料・肥料争奪戦』」「農業政策の目玉は輸出振興とデジタル化と政府は言うが、真っ先にやるべき事は、国内生産の確保に全力を上げること」と言う。

「ウクライナ戦争」や「中国が爆買い。中国が高値で買い日本が買い負けるケースが起きている」「世界的な異常気象、原油価格高騰で『日本の農家が潰れる』危機」「世界を牛耳る『多国籍企業』」・・・・・・。世界の食料生産は不安定化し、かつ「食の安全」が蝕まれている。

「日本の食料自給率が下がった最大の原因は、貿易自由化と食生活改変政策」と言い、「コメ中心の食生活こそ大事。『食料はお金で買える』時代は終わったと認識すべき」と言っている。

「日本人が知らない『危険な輸入食品』」では、具体的に危険性を述べるとともに、日本の消費者の意識の低さを指摘する。

「日本の農業は過保護というのは間違いで、欧米の農業が自由競争で発展したというのも間違い」で、「本当は世界一保護なしで踏ん張ってきたのは、日本の農家」だと言う。そして「本当に食料危機に備える『食の安全保障』や、地域コミュニティーの維持、環境への配慮をおろそかにせず、多様な農家が共存しつつ、コミュニティを持続する方向性を政府として主導せよ」と言う。昨年の「米騒動」が忘れ去られようとしている今、「食料・農業」を守り抜くことの重要性を噛み締めたい。


1792935037796.jpg夢と現実のあわいの世界にまつわる不思議な物語の全五篇からなる連作短編集。今までの三浦しをん作品とは、全く違う世界を見せてくれる。

「神馬に乗る女」――。「一度帰ってきてくれないか」「助けてくれ、輝久。お母さんがおかしいんだ」という父親からの電話で3年ぶりに故郷に帰ると、そこで待っていたのは相変わらずうつくしくてきれいな継母・喜久美の姿だった。だが彼女には「ヌチガミサマ」という得体の知れぬ神が憑き、ありがたかっている一部の住民がいた。輝久は、惹かれながらも怖くて逃げ続けていた。

「胡蝶」――。よく夢を見、よく当たる。夢見の力<予知夢>がある祖母が好きだった未千。その祖母が死に、21歳の誕生日に高熱に浮かされて以降、それまで見ることのなかった夢を見るようになり、夢を覚えていられるようになる。ニ十代の終わりに信太郎と結婚する。ニ人の間に子供はできないと思われたが、初めての結婚記念日の夜、お腹に赤ちゃんがいるという夢を見る。夢の中でどんどん成長し、ついに出産、千夜太と名付ける。小学生となった千夜太にも夢見の力があり、世界が爆発し終わることを詳細に語るようになる。「終わりなど来ず、千夜太とタロさんと夢のなかで暮らしていきたい」と思うのだが・・・・・・。

「夢見る家族」――。夢の世界の千夜太の弟・夜音次。「うちの家族はちょっと変なのではないか」「千夜太は見た夢をよどみなく話し、母親は熱心に万年筆をノートに走らせる」「他の家では、あんまり夢の話はしないのか?」と思う。

「ああ、千夜太には、やっぱり夢見の能力がある。あなたをこっちの世界に連れてきてよかった」・・・・・・。夢の中で産んだ子供をこっちの世界に生み直したと告げられる兄弟だが・・・・・・。

「金の糸」――。「ムツミは今日からベースやれ」――扱いに困る珍獣ともいうべき同級生のゴンゾーに巻き込まれ、バンドを組むことになった高校生の六実。やがてこのバンド「エイヒレ」は快進撃、ついに武道館でやるまでになったが・・・・・・。

「夢の子ども」――。六実を子供の頃、両親から引き離して育てた兄の物語。この兄が第一篇の輝久。なぜ両親から六実を引き離したか。母親とのアンビバレンツ的関係、それも憎しみというのではなく、「カリスマ」の引力への愛と畏怖が描かれる。

「夢」という人間の心の中に潜む生存への恐れと欲求、「カリスマ」の支配と束縛から自由への脱出。心の深層を誰にもある日常の中から「夜の恩寵」として描いた熱量ある作品。


1792678746796.jpg「イラン侵攻は何をもたらすのか」が副題。2026年2月28日、アメリカ・イスラエルによるイラン侵攻は、何のための、誰のための戦争なのか。国際政治、国際経済が構造的に変化するなか、日本はこの岐路にどう立ち向かっていくべきか。イラン戦争の意味するものと、複雑に絡み合う歴史構造を、各分野の第一人者12名がその専門から剔抉する著作。

「人々がトランプに期待したのは、むやみやたらと覇権を求めず、国内問題に注力するアメリカだったが、中東への軍事介入に乗り出した」「イラン戦争は、アメリカの国益のために行われた戦争でも、アメリカ市民の広範な支持に支えられた戦争でもなく、『トランプの戦争』であった」「開戦の決定に最も影響を与えたのはイスラエルのネタニヤフ首相。その意味でイラン戦争は『ネタニヤフの戦争』」「最大の誤算は、イランの強靭な抵抗。体制はむしろ強固になり、イランの核兵器保有への意思も固まり、ホルムズ海峡の封鎖という強力なカードを手に入れた」「トランプ政権は宗教的言説によって正当化ししてきたが、イランは現実には、宗教というより、それを文化とした近代国家として運営されている」「アメリカでも宗教多元主義をとってきた米軍の慣行から逸脱するものだ。イラン戦争を契機に、むしろ宗教が育んできた平和や共存のための多様な知恵に改めて目を向ける必要がある」と言う。

イラン戦争は「アメリカ覇権の終焉を決定的にするのではないか」「今、アメリカは国際秩序や世界経済を安定させようとする意思を持っていない。むしろ巨大な不安定要因になりつつある」「米中覇権争いの文脈で見れば、イラン戦争はアメリカの『オウンゴール』の指摘もある」「イラン戦争は公共財の提供者から秩序の撹乱者へと変貌するアメリカの姿を明るみに出した」と言う。

この中での日本の心すべきことを様々提起する。今回のエネルギー危機を踏まえ「資源小国」日本の中長期エネルギー戦略。日米関係は最重要の同盟関係であることに変わりはないとしても、米中関係と日中関係の認識の差異。基軸通貨ドルが衰えつつある今、官も民もアメリカ一極集中で投資を続ける惰性で良いのかなど、問題提起は多岐に渡り、危機感に満ちている。

国際法を軽視するトランプ政権とどう向き合うかの難しい問題もある。カナダのカーニー首相、イタリアのメローニ首相などの対トランプの発言があるが、北東アジアの安全保障環境はより厳しい。その中での外交・安保戦略をどうするか。リアリズムの名の下での惰性が許されなくなっていることも事実だ。加えて、「AI戦争の時代」は既に始まっており、「戦争の非人格化」「戦闘・戦場の非人格化」は、最大の問題として恐るべき時代に突入してしまっている。

「『危機』を直視するために」「イラン戦争とアメリカ」(三牧聖子)、「イスラエル――『イランの脅威』に取り憑かれた国家」(鈴木啓之)、「中東におけるイラン」(坂梨祥)、「イランは宗教国家か――イスラム共和体制のゆくえ」(黒田賢治)、「トランプの論理――神の名をめぐる闘争」(加藤喜之)、「覇権国不在の世界経済のゆくえ――1930年代型の混乱が続くのか」(河野龍太郎)、「中国の原則と行動ーーウクライナ戦争とイラン戦争における中国外交」(山口信治)、「ホルムズ海峡危機と『資源小国』日本」(白鳥潤一郎)、「高市政権の外交と日本の選択」(山本章子)、「グローバルサウスの多国間主義――アラカルトから規範的連帯へ」(根岸陽太)、「逆流する『対テロ戦争』――指導者殺害作戦について」(西平等)、「軍拡はAIからはじまる」(内田聖子)。いずれもテーマを絞って専門家が言及しており、極めて重要な発言。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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