「日本人は困っている人を助けないのか」が副題。日本は「思いやりの国ニッポン」「助け合いの国ニッポン」「おもてなしの国日本ニッポン」と思っていたが、どうもそうではないようだ。「国は貧しい人を助けるべきか」と言う問いに、賛成する日本人の割合は世界で最低。イギリス財団による「世界人助け指数」では、日本は126カ国中107 位。「世界価値観調査」で「他国の人は信頼できる」と答えた人は、オランダ15.4%、アメリカ8.1%に対して、日本はわずか0.2%。つまり、日本は他人にも他国にも「優しくない国」などだと言う。自己責任の論理が前面に出て、弱肉強食の世界が進んでいるからなのか。長期デフレに沈んで、貧すれば鈍するとなっているのか。ユニークな角度で、エビデンスを調査し問題提起をしている。
調査結果はまず認めなければならないだろう。日本の特徴はいくつもある。「デフレで多くの日本国民の所得が下がっている(他人を助ける余裕がなくなってきている)」「相対的貧困、6人に1人は貧困状態にある」「日本は相互監視と制裁の社会制度によって『よそ者』を排除し、信頼に頼らない安心社会を築いてきた(社会制度頼みの日本人の思いやり)」「地縁組織やPTA等への参加が減少傾向にあり、信頼や社会参加が人助けを促すならその土壌がますますなくなってきている」「日本人は日本人と言う自集団への帰属意識や連帯意識が低くなっている。自分のことは自分ですべきという自己責任の意識が強く、公助への合意形成を難しくしている可能性がある」「生活保護を受けられるのに、受けない人が他国より圧倒的に多い。他人に迷惑をかけたくない、かけるのは恥であるというスティグマ(汚名)意識がある」「ベーシック・インカムはスティグマを軽減する」・・・・・・。
デフレに沈んだ。高度成長のなか、家族も地域も会社も助け合い意識が崩れ、こうした見えざる社会保障の崩壊が進んだ。他人様に迷惑をかけない「恥の文化」がある。根強い政治不信もあって、社会参加へのシステム作りが進まない。これらは現実だが、「日本人の約6割の人が社会に貢献したいと潜在的に思っている」という調査も示しており、「他人に優しくないニッポン像」は表層的なイメージにすぎないという時代をつくりたい。
「何が起きても不思議ではないこれからの時代。会社は、日本は、どうなるか」「ウィズコロナ社会、資本主義の変遷、会社の栄枯盛衰、日本企業のタテ型社会、米中新冷戦・・・・・・」――。社会の激変、会社大変革の時代を予測し、将来の見取り図を描く。蓄積した見識と経験をもとに、ズバッと語っている。
「SDGs、ESGの看板に騙されるな――会社にとって大事なのは中身と実行力」――。「実態を反映していない株価。喜ぶのは配当金を手にしている投資家だ」「株主第一主義から脱却し、ステークホルダー資本主義に転換せよ」「私利私欲の追求ではなく、他者への配慮や公共性をも包み込んだ資本主義に」「日本には誇るべき三方よし、商売十訓の伝統哲学がある」「社員は会社の宝、社員第一主義」「脱成長経済なんて想像の産物であり、ありえない。人間はそう簡単には変わらない」「SDGs、ESG投資、格差是正、脱炭素・・・・・・。美しい言葉には注意せよ。どれだけ具体的な活動に落とし込んでいけるか、中身と実行力だ」。
「GAFAも長くは続かない――これから世界を支配するのは中小企業だ」――。「企業は必ず栄枯盛衰があり、資本主義は段階的に反復しつつ進化・発展する」「今後は多品種少数生産の時代が来る。大企業の中小企業化が進む」「ギグ・エコノミー。人材とアイディアを横につなげて最適化せよ」「日本企業のメンバーシップ型雇用ではなく、業績中心の欧米流ジョブ型雇用へ転換を」。
「いつまで上座・下座にこだわっているのか――タテ型組織を変革して会社を新生せよ」――。「前例や慣習を優先する悪しき日本の文化」「日本企業の強みのチーム経営と死なば諸共」「権限と責任の明確化がタテ型を崩す」「価値観を変えることが改革の第一歩」「下から変えなければ上は変わらない。Z世代への期待」。
「アメリカと中国、真の覇権国はどっちか――米中衝突時代に求められる日本企業の役割」――。「中国を封じ込めることはできない。米中は共存共栄せざるをえない」「中国が坑えない時代の趨勢。世界は民の声を重視する方向へ動いている」「中国は分裂していく方向に進む。連邦制が最適」「経済発展のためには戦争に近づかないと言う国是が大切」。
「中小企業が世界を翔ける――信用・信頼こそ日本の力」――。「人材こそ日本の最大の資源。教育を受けた人材の層の厚さは誇るべきもの」「家庭・学校・社会教育を充実させよ」「学力よりむしろ精神力の強さと人間としての誠実さ」「信用・信頼はおカネでは買えない。長い時間をかけ、知性、技術、精神を磨く努力と研鑽を」「人間が変わらなければ組織も日本も変わらない」・・・・・・。
本質的な重く深い提言。
「アメリカの戦略転換と分断される世界」が副題。米中国交回復から50年。長らく中国に関与、支援してきたアメリカだが、トランプ、バイデン政権のなか、中国警戒論が勢いを増し、その角逐は激しさを増している。今後の世界は米中対立の構図のなかで展開し、日本も難しい舵取りを迫られる。本書は50年の米中関係、その変化を、資料を丹念に調べあげ、学術的知見に基づいてその構造変化をきわめて誠実に描き出している。
アメリカの対中姿勢には「3つの期待」が貫かれていた。中国が「政治改革」を進め、「市場化改革」を行い、既存の国際秩序を受け入れて「国際社会への貢献」を増していくということだ。関与・支援してきたのはまさにその「3つの期待」があったからだという。しかし、その「信頼の喪失」と「パワーの接近」によって警戒感が広がり、対立に向かう。天安門事件、冷戦の終結、ソ連崩壊、台湾海峡危機・・・・・・。オバマ政権のなか中国への違和感・警戒が高まっていく。中国における社会統制の強化、軍拡への懸念、一帯一路の具現化、そして人権問題。「中国にかけられていた『3つの期待』は損なわれていった」という。アメリカで関与政策が否定され、「貿易戦争と対中強硬論の融合」「コロナ後に加速する強硬姿勢」「強化された米台関係」と、トランプ政権下の動きを指摘する。そしてアメリカの政権の背景にある様々な国内ファクターを示す。さらに「米中対立を見つめる世界」にふれ、「今後の展望」を論述。「日本外交には、いわば連立方程式の思考が必要だ。それはパワー(力)と価値観の2つを共に成り立たせたところに外交を構想するということだ」という。
「月」は、幻想的でもあり、透徹した静寂でもあり、哲学的でもある。小田雅久仁さんの9年ぶりの新作となる「月」にちなむ3つの短編集。ファンタジーではあるが、逆に現代社会の不安の根源、「日常が突然ひっくり返る」「人類の未来は、テクノロジーの加速化等によってディストピアになる」などが突きつけられ、恐ろしい世界に引きずりこまれる。
「そして月がふりかえる」――。不遇な半生を送ってきた男・大槻高志が、非常勤講師の不安定さからやっと抜け出し、35歳にして私大の準教授になり、長く交際してきた詩織とも籍を入れる。怪しげな赤い満月の夜、家族とともにレストランに行き、トイレから出てきた瞬間、別人になってしまう。詩織からは「どなたですか」「どっかで会いました?」と言われ、「世界は俺1人をはじき出し、ピタリと輪を閉じてしまった」のだ。高志は焦り、あがくが・・・・・・。
「月景石」――。早逝した叔母・桂子は石の収集をしていた。その形見である月の風景が浮かんだ「月影石」。主人公の澄香は言われる。「この石を枕の下に入れて眠ると、月に行けるんだよ。でもすうちゃんは絶対やっちゃ駄目。ものすごく悪い夢を見るから」と。そして、眠りの中で恐ろしい裏月の異世界に引き込まれていく。
「残月記」――。2050年前後の日本。不治の感染症である「月昂(げっこう)」が蔓延し、人里離れた療養所に隔離されていた。この月昂者たちは、明月期には、溢れかえる躁病的な創造性や性力が備わっていた。主人公の宇野冬芽も、その創造性を発揮し、木像を彫り続け、自作の背銘に「残月」と刻むようになる。時の日本は、2028年の西日本大震災も加わり、下條佑の国家資本主義、独裁政権が20年余り続いていた。人権を無視した残酷な独裁政権は、なんと、月昂者の勇士を戦わせる「闘技会」を隠れて開いていた。コロセウムや最近のイカゲームの剣闘士だが、冬芽はその頂点に立つ。勝者には褒美として「勲婦」と称する女を与えられていたが、そこで山岸瑠香と会い.愛し合うようになる。そして2051年に独裁政権を倒す自爆テロ事件が闘技会で起き、下條政権は崩壊。「瑠香ニ捧ぐ 残月」と彫られた木彫が療養所に次つぎ投げ込まれる。殺害を免れた冬芽の仕業だ。愛する女のために。残酷な世界――業と運命と月と愛がくっきり浮かんでくる。哲学性ある大変な力作。
今年のNHK大河ドラマの主人公・北条義時。北条時政の次男で、北条政子の弟。北条家は伊豆の豪族。源頼朝の伊豆での旗揚げ時から忠義を尽くし、源氏三代の「鎌倉殿」に仕え屋台骨を支えた武将。「我、鎌倉にて、天運を待つ」が副題だが、本書では「貫禄がない」「頼朝も政子も実朝もピリピリしているが、人を安心させる雰囲気を持ち、余人の及ばぬ視野の広さがある」「何よりも運がいい」という人物であったことを描く。
「頼朝、起つ」「鎌倉の主」「暁に沈む」「雷光」の4章よりなる。「頼朝の挙兵。治承の旗揚げには、反平家の武士が集まったが、その中核は政子に命令された江間近在の武士。それなしには三浦や土肥などの古い源氏党もひるみ危ぶんだ」「政子の次は梶原景時が担ったが、やりすぎて滅びた」「頼朝の両輪は梶原景時と大江広元だが、大江広元は承久の乱に至るまで義時を支えた柱」「比企能員と二代頼家を謀殺」「北条家の養君・実朝を奉じ鎌倉の権力を手にした北条時政」「時政と牧ノ方に対峙する政子と義時。義時は時政を出家させる。江間義時から北条義時に」「和田義盛の御所への謀反」「公暁による実朝殺害、義時は幸運にも免れる」「承久の乱。後鳥羽上皇による弱体化すると見た鎌倉への揺さぶり。北条義時を標的にした追討の宣旨」「関東8カ国を箱根・足柄で防いで官軍を待ち構えるとの関東諸将の信仰を打ち砕いた大江広元の京都を急襲する知恵。それを受けて進む金剛(北条泰時)の鎌倉軍」――。北条義時は後鳥羽上皇に鎌倉にいながらにして勝ってしまったのだ。「和田合戦に勝ったのは実朝のおかげ、承久の乱に勝ったのは大江広元のおかげ――だったかもしれないが、最後の勝利は北条義時の手に帰した」と描く。
「鎌倉殿の13人」――頼朝死後に頼家がニ代将軍となるが、独裁を防ぐために「13人の合議制」としたという。北条時政と義時、比企能員、三浦義澄、和田義盛、梶原景時、大江広元らだが、その確執は相手を謀殺するほど激しい。